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『地獄でメスがひかる』ネタバレ感想


『地獄でメスがひかる』という少女漫画が、「なかよし」60周年記念ということで、復刻版が発売されました。

同時発売された『ミラクル・ガールズ』あたりは読んだことがあるんだけど、この作品はあまりにも古く、全く知りませんでした。封入されていた描き下ろしペーパーでは、作品名を原作者すら間違えていました…つまりそれくらい大昔の作品(-o-;)昭和47年っていつ?私は63年生まれだから、かなーり昔だわ。。。

その作品タイトルからもわかるように、怖いお話です。幽霊は出てきません。人間の暗部がただただ怖く……


傷ついた心は、いつまでも癒えることはない。




以下はネタバレありの感想です。














■あらすじ
あまりにも醜い容姿のため、誰からも愛されることのない少女・ひろみ。家族からも、酷い仕打ちを受ける日々……。絶望したひろみは自殺をはかるが、冷徹な天才医師である巌俊明(いわお・としあき)に命を救われる。
俊明は病院の地下室で、死体を継ぎ接ぎした、“生きた死体”を作っていた。俊明は、その体に移植する“脳”を探していたのだった。
ひろみの脳は、その体に移植され、美しい見た目へと生まれ変わった。美人モデルとして写真集を出し、一躍有名になったひろみ。今までの醜い自分の時とは違い、周りの誰もがちやほやと優しくしてくる。あの家族でさえも、見た目が違うだけなのに、ひろみを憧れの目で見てくるのだ。
俊明は、ひろみと出会った時から、不思議な感情があふれてくるのを感じていたが、そのたびにマリファナを吸って自らの心を誤魔化す。
俊明の助手をつとめる看護婦の由起は、俊明の、ひろみに対する気持ちに気づき、ひろみに嫌がらせをする。“俊明にとって、ひろみはただのモルモットであること”“ひろみの元の体は地下室に保存されていて、俊明はその死体と今の美しい体を並べて、世界に自分の研究を発表するつもりでいること”を、ひろみに教える。
それを聞いたひろみは、自分のかつての体をメスで切り裂き、焼却炉で焼いてしまった。俊明は怒るが、ひろみは精神錯乱に陥る。
俊明たちは、研究の発表の準備を進めていた。しかし俊明は、大事な書類を焼き捨ててしまった。
ひろみは、過去に受けた仕打ちを思い出し、精神に限界が来て、嵐の中をさ迷い、やがて死んでしまう。
マリファナを切らし、自分の気持ちを誤魔化せなくなった俊明は、嵐の中ひろみを探しにいくが、すでにひろみは死んでいた。俊明は、愛するひろみの死体を抱え、崖から飛び降りた。
――その地下室が人々に発見されたのは、それから十数年後。しかし誰も、その地下室で何があったのか、想像することすらできなかった。




■感想
絵がとても丁寧で綺麗なので、表紙の絵を見て気に入ったなら買い、です。白黒原稿もクオリティが高いです。

“死体から作った体”というのがなんとも怪奇的で、ホラー好きな方にもおすすめです。(公式の作品紹介には「怪奇ロマン」とあり、作者いわく「ミステリー」)。


私は、簡単なあらすじだけ見た時は、「美人に生まれ変わった元不細工が、急に天狗になって心が醜くなって、破滅していく話なのかしらん」と思いました。ところがどっこい、全然違う話でした。

ひろみは、顔が醜いだけではなく、いわゆる“せむし”だったので、その体だけでも治したいと願っただけの、純粋で優しい少女でした。そのつもりで手術を受けたのに、目覚めたら、隣に自分の死体が!!自分の新しい体は、びっくりするほど美しい姿をしていました。
ですが、ひろみの「消毒薬のにおいが嫌い」なところが以前と全く変わらないのと同じで、彼女の“心”は、何一つ変わっていませんでした。心に負った深い傷は癒えず、人目が気になってしまう癖もそのままです。
『見ないでください わたしを見ないで みんながわたしを見てどう思ってるかしってます このみにくい顔を このみにくいからだを見て』……こんな場面がいくつもあります。激しく反応はしなくても、心の中では違和感ばかり。そして徐々に、精神的におかしくなっていきます。

中身は全く同じなのに、見た目が違うだけで周りはチヤホヤ、憧れの人からの愛の囁き……。しかしひろみは、『そんなことをいわれても わたしはちっともうれしくない だって あなたがすきなのは ほんとうのわたしじゃないんだもの』と苦しみます。


俊明という人には、医療ミスの濡れ衣を着せられて、大学の医学部から追放されたという過去があります。他の医者を見返してやるためにこの研究をしているので、ひろみは大事な“研究成果”なのです。
実は俊明は、出会った時から、ひろみの心に恋していました。しかし、その不思議な気持ちに気づくたびに、マリファナを吸って誤魔化します。ひろみは単なるモルモット、そう無理に自分に思い込ませて……。
このマリファナというアイテムが実に効果的に使われていて、ラストでマリファナを切らしてしまったことで、俊明は『ひろみ おまえを愛してる』と自分の気持ちを認めます。
★ひろみの外見が醜かった時点で、すでにマリファナに頼っているのがミソ。ひろみの心が苦しむたび、傷つきそうになるたびに、彼はマリファナに頼ります。
美しい外見を愛したわけではなく、外見に関係なく、俊明は“ひろみ”を愛したのです!!ここは大事です。マリファナを吸うタイミング、大事。

まぁ、このマリファナが、俊明の“冷徹な医師”としての心を維持させていたために、悲劇となってしまうのですが……。




さて、最大の見せ場は、ひろみが自分の体をメスで切り裂き、焼却炉で焼いてしまうシーンでしょう。いわゆる「みんなのトラウマ」。
最初のほうで、ひろみが『やきすててしまって!』『このへやのしたに じぶんの死体があるなんて あのすがたをさらしているなんて いやなんです』と俊明に訴えます。俊明は『わかった』と答え、病室を出て、少し考えたあと……マリファナを吸います。そして彼は“冷徹な医師”に戻り、『処分などするはずがないじゃないか』と判断するのでした……。

ですから、ひろみが看護婦の由起に、自分の死体がまだ地下にあると聞いた時……信頼していた俊明に裏切られたことを悟るのです。ショックで気が動転したひろみは、地下室に行き、自分の体を処分したのです。


『じぶんでじぶんのからだをメスできりきざむのは どんな気がするものかな?』
俊明はそう言い、大事な書類をすべて焼き捨ててしまいました。


そして、あっという間に悲劇は訪れます。破滅です。

二人が死んだあと、死体は見つからず。
“病院のあの地下室が人々に発見されたのは それから十数年たってのことでした”“でもそこでなにがおこったのか だれ一人想像することすらできませんでした”……物語は、不気味な地下室の背景と、このようなナレーションで終わります。



登場人物が他にもちらほらいるのですが(院長とか俊明の後輩とか)、すべてのキャラクターが無駄なくいい働きをしています。
短期連載作品だったからこそ、ダラダラせずに凝縮した内容で、うまくまとめられたのだと思います。読みきりだと、短すぎて、ここまで緻密に心理描写ができませんね。



大変おすすめです。せっかく復刻されたので、気になる方は是非!!





同時収録の『鬼あざみ』は、不幸な身の上の不良少女・あざみの物語。こちらの作品も、“誰からも愛されなかった少女の物語”です。悲劇なのか、それとも救いはあったのか。色々と考えてしまうENDでした。
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